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解題
                                    山下 浩
 
『二百十日』
 
 『二百十日』は、『一夜』『薤露行』と同じく『中央公論』に発表された。第二十一年第十號秋期大附録號(明治三十九年十月一日発行)の「大附録」(一頁から七四頁)への掲載である。
 『中央公論』の判型、菊判については第三巻に収録の拙論「漱石の雑誌小説本文について」を参照されたい。
 本体の頁は二段ベタ組み(活字と活字の間にスペースを入れないで組む一般的な組み方)、一行二十四字詰、一頁十八行となっているが、附録の方は、段ヌキ(一段組)、一行四十六字詰、一頁十六行で組まれている。但し、最後の二頁(七三、七四)は、割付の都合であろうが、十八行になっている。
 
 『二百十日』の復刻に際しては、(1)に示す十一部を校合し、(2)のような異同・欠字の類を発見した。復刻の底本には(2)に示す箇所の頁を除き保存状態の良好な早稲田大学所蔵本を用いた。なお(2)で参照した初版『鶉籠』は、山下所蔵本と市販復刻版の二点である。
 
(1)(神近)神奈川県立近代文学館、(近代)(財)日本近代文学館、(近吉)(財)日本近代文学館吉田精一文庫、(慶応)慶應義塾大学三田メディアセンター図書館、(国会)国立国会図書館、(昭女)昭和女子大学付属図書館、(早大)早稲田大学中央図書館、(中公)中央公論新社、(東大)東京大学総合図書館、(明文)東京大学法学部附属近代法政史料センター明治新聞雑誌文庫。なお雄松堂書店製作のマイクロフィルム(マイクロ)は、撮影原本が不明のため参照はしつつも正規の校合には加えていない。
(2)異同箇所(□印は欠字その他問題の箇所をさす)
 
・一五頁八行目(この頁は中公本を使用)
 僕は麺類ぢや   神近 近吉 慶応 国会 昭女 中公 明文
 □は麺類ぢや   近代 早大 東大
 
・六六頁八行目
 「二□十日だつたから   校合本すべてで欠字。初版では「百」。
 
 
『野分』解題
 
 『野分』は、『ホトヽギス』第十巻第四號(明治四十年一月一日発行)の「附録、一頁から一七三頁」に掲載された。『ホトヽギス』「附録」への掲載は、『幻影の盾』『坊っちやん』に次いで三作目である。
 前号の第十巻第三號「次號豫告」には、「内容の判明せるもの」として寺田寅彦と鈴木三重吉の小品の前に「小説  夏目嗽石」が予告され、「嗽石氏の小説は長大篇なり。」とある。ちなみに、同欄に「坊っちやん號。殘部多からず、御入用の方は至急御申込を乞ふ。郵税共四十銭。」ともある。
 はたして、次号の『ホトヽギス』は通常号の数倍の厚さがあり、その過半は『野分』掲載分であった。『坊っちやん』を掲載した第九巻第七號(明治三十九年四月一日発行)に匹敵する。
 しかしその組み方は、附録の前二作に比べて、「別丁 段ヌキ (一頁)十六行」までは同じであるが、「四分アキ」ではなくなり本体と同様にベタ組みとなり、その結果前二作の一行三十九字詰から四十七字詰になっている。四分アキからベタ組みへの変更は附録の頁数削減であろうが、それでも『坊っちやん』の百四十八頁に対して、百七十三頁にもなっている。以下で校合した明文本には乱丁があり、最初に十七頁から三二頁の折りが来て、その次に一頁から十六頁の折りが来ている。この結果、この雑誌の折が八折りであることが判明する。
 雑誌『ホトヽギス』についての詳細は当復刻全集第三巻所収の「漱石の雑誌小説本文について」を参照されたい。
 漱石は明治四十年四月に朝日新聞に正式入社しており、『野分』はそれ以前に執筆した最後の小説となる。次号の『ホトヽギス』第十巻第五號(明治四十年二月一日発行)には巻頭に掲載された野上八重子の短編『縁』を推薦する「漱石氏來書」を載せている。
 
 『野分』の復刻に際しては、(1)に示す十三部を校合し、(2)のような異同・欠字の類を発見した。復刻の底本には保存状態の良好な山下所蔵本を用いたが、欠字その他に問題があって他本の頁を用いる必要がある場合には、その旨を(2)の該当箇所に明記してある。なお(2)で参照した初版『草合』は山下所蔵本と市販復刻版の二点である。
 
(1)(共立)共立女子大学図書館、(慶応)慶應義塾大学三田メディアセンター図書館、(国会)国立国会図書館、(早大)早稲田大学中央図書館、(東大)東京大学総合図書館、(都立)東京都立大学附属図書館、(東女)東京女子大学附属図書館、(日芸)日本大学芸術学部附属江古田図書館、(一橋)一橋大学附属図書館、(明大)明治大学附属図書館、(明文)東京大学法学部附属近代法政史料センター明治新聞雑誌文庫、(山下)山下浩、(立教)立教大学附属図書館
 
(2)異同箇所(□印は欠字その他問題の箇所をさす)
 
・五八頁一二行
 ぢやないないか□   校合本すべてで(」)が脱落。初版では(』)が入っている。
 
・八〇頁八行(この頁には慶応本を使用)
 なんか□な男が  共立 国会 早大 東大 都立 東女 日芸 明文 山下 立教
 なんか妙な男が  慶応 一橋 明大
 
・一一四頁四行
 温(ぬく)め返された   早大 一橋 明大 山下
 温(く)め返された   共立 慶応 国会 東大 都立 東女 日芸 明文 立教
 
・一二五頁九行(この頁には東大本を使用)
 高□を   慶応 国会 早大 都立 一橋 明大 明文 山下
 高柳を   共立 東大 東女 日芸 立教
 
・一三八頁四行(この頁には早大本を使用)
 御座いません   慶応 早大 一橋 明大 立教
 御□いません   共立 国会 東大 都立 東女 日芸 明文 山下
 
・一三九頁四行(この頁には早大本を使用)
 なんです。――演説の   慶応 早大 立教
 なんです。□□演説の   共立 国会 東大 都立 東女 日芸 一橋 明大 明文 山下
 
・一五三頁最終行
 何であらうと□――   校合本すべてで欠字。初版では「も」。
 
・一五六頁七行
 訳□わからない   かすかに「の」とわかるが校合本すべてが不鮮明。初版は「の」。
 
・一六五頁一二行
 逗子でも鎌倉でも、  共立 慶応 早大 東大 東女 一橋 山下
 逗子でも□倉でも、  国会 明文 都立
 逗子で□□□でも、  日芸 立教
 逗子で□も□でも、  明大