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印刷文化論レポート
                   比較文化学類 200100510 高橋佑果
 
 
   地域メディアとしての地方紙 ―上毛新聞を事例として―
 
T.はじめに
(1)本稿を書く動機
 現在、地方紙の規模が小さくなっていると聞いた。群馬県で育った私は、小さい頃から群馬県紙である「上毛新聞」に身近で触れてきたが、およそどの家庭にも上毛新聞があるという印象を持ってきた。そこで、上毛新聞は、現在どのような現状にあるのか、地方紙としてどのような役割を果たしているのかを調べることにした。
 
(2)目的
 本稿の目的は、上毛新聞を事例として、地域メディアとしての地方紙の現状を分析することにある。それにいたる段階として、まず、新聞の用語の解説、日本の新聞全般のニュース制作過程について簡単に触れる。次いで、日本の地方紙に関して、いくつかの角度から論じる中で、上毛新聞の現状分析を試みる。
 
U.「地方紙」とは
 「専門紙」(スポーツ紙、業界紙等)や「英字紙」、「機関紙」を除いた「一般紙」について、主に配布・販売されている地理的な範囲によって以下のように分類される。
 
(1)「全国紙」
 戦時下の新聞体制の下で、全国への配布が認められた一般紙3紙(『朝日新聞』、『毎日新聞』、『読売新聞』)と、(当時の)経済専門紙2紙(『日本経済新聞』、『産業経済新聞』=現在の『産経新聞』)。これら5紙は戦後も全国への配布体制をとり、現在も数百万部単位の発行部数をもっている。
(2)「地方紙」
 戦時統制下で、複数の府県への配布が認められたブロック紙と、特定の府県への配布が認められた県紙、および、戦後、これらに準じて県域以上の規模の範囲を活動対象として成立した諸々の新聞の総称。
  ・「ブロック紙」:戦時統制下のブロック紙は、『東京新聞』、『中部日本新聞』=現在の
『中日新聞』、『大阪新聞』、『西日本新聞』の4紙を指した。戦後、『中部日本新聞』は順調に事業を拡大し、配布地域も拡大したが、他の3紙は経営的に苦境に立たされた。今日では、『中日新聞』、『西日本新聞』に、発行部数が百万部を越える『北海道新聞』を加えて「ブロック3紙」と呼ぶことが多い。
   ・「県紙」:いわゆる「一県一紙」政策によって成立した戦時統制下の県紙は、その多くが、統合によって経営基盤を固め、今日では有力な地方紙として存続している。しかし、全国紙や有力ブロックの発行拠点に近い大都市圏では、県紙の弱体化が進んでおり、本来の県紙としての規模を失ったり、廃刊に至った例が多い。上毛新聞はこの県紙に属する。
(3)「地域紙」
 市町村などを単位として、配布地域が限られた、県紙の規模に至らない新聞は、戦時統制下ではごく一部の例外を除いて存続は認められなかったが、戦後になって多数が刊行されるようになった。こうした小規模紙は「ローカル紙」とか「地域紙」と呼ばれている。
 
V.新聞のニュース制作過程
 社会で生じた出来事が新聞のニュースへと変換される過程、それが新聞のニュース制作過程である。この過程は、基本的には「出来事の発生→出来事の選択・取材→記事作成→編集・整理→新聞記事」という一連の流れとして捉えることができる。新聞社が独自に取材する出来事(他の発行本社、国内支局、記者クラブ、事件の発生)と、他の組織(国内通信社、外国通信社)が取材した出来事が、ニュースとして伝達される。
各新聞社は、それぞれのニュース・バリューに照らして、ニュースの採否を決定し、採用したニュースの紙面の割りつけを決めている。地方紙の場合、各地方で生じた出来事が優先される傾向が強い。そのため、全国紙と比べ、各地方紙はそれぞれの府県内に多くの支社や支局を置き、きめ細やかな取材体制を整えている。他方、府県外の国内ニュースや国際ニュースに関しては、地方紙は国内通信社(共同通信と時事通信)に依存している。実際、地方紙の大部分は海外支局を持たず、外国通信社から配信されるニュースにしても、国内通信社を経由して入手している。ただし最近は、地方紙の一部に全国紙と提携し、その種のニュースを入手しようという動きもある。
 
W.地方紙の現状
1998年10月現在、日本全国で一日に発行されている新聞総数は、朝夕刊セット紙を1部として計算した場合、約5,367万部、普及度は新聞一部あたり2.34人である。全国紙、ブロック紙、地方紙ごとに発行部数の占有率を見ると、朝刊の場合、全国紙53.1%、ブロック紙10.4%、地方紙36.5%である。夕刊では地方紙の割合が低くなり、かわって全国紙の割合が高くなる。これらの数値は近年あまり変化していない。
 地方紙の発行形態は、他の新聞と同様、朝夕刊セット、朝刊紙、夕刊紙の3種類である。発行部数は、数万から数十万にいたるまでかなりの差がある。一日平均のページ数を見ると、40ページを越える新聞から、4〜5ページにとどまる新聞まで、やはり大きな開きがある。ただし、発行部数が多いほどページ数も多くなる傾向が見られる。
 地方紙の近年の動向としては、比較的知名度の高い地方紙が相次いで廃刊(休刊)してきたことがあげられる。たとえば、日刊新愛媛(1986年)、関西新聞(1991年)、フクニチ(1992年)、東京タイムズ(同)、日刊福井(1994年)、栃木新聞(同)、新大阪(1995年)、北海タイムズ(1998年)、石巻新聞(同)が、廃刊(休刊)に追い込まれた。その理由としては、第一に、経済的不況が広告減・部数減につながり新聞経営を危うくしたこと、第二に、北九州の地盤沈下、北海道における経済的破綻などが新聞の盛衰に影響を及ぼすという地域的要因、第三に、経営者・経営陣の失敗が指摘されている(春原昭彦、1999、22頁)。もちろん、地方紙にとどまらず、日本の新聞社の大部分は、市場の飽和化、度重なる設備投資の経営圧迫といった問題を抱えている。さらに地方紙の場合には、全国紙の積極的な地方進出による競争の激化という問題がそれに加わる。
 次に、新聞読者の地方紙に対する評価を見てみると(図1)、地方紙に関するイメージについて全国紙を大きく引き離しているのが「親しみがある」、「地域に貢献している」という項目である。他方、全国紙の方が高い評価を得ているのは、「影響力がある」というイメージであり、加えて「信頼できる」というイメージについても、全国紙のほうがかなり高くなっている。
 
図1 全国紙・地方紙のイメージ
  
  
 
1:親しみがある
2:影響力がある
3:情報が早い
4:信頼できる
5:役立つ
6:地域に貢献している
出典:電通総研編(1998)、30頁
 
 

X.上毛新聞の現状
(1)上毛新聞の沿革    
 1887(明治20)年  「上毛新聞」創刊(群馬日報、上野新報を合併)
 1940(昭和15)年  上州新報、群馬新聞などを合併
            県一紙の「上毛新聞」となる  
 1970(昭和45)年  初のカラー印刷  
 1988(昭和63)年  新聞の2部構成「ツイン方式」スタート 
 2000(平成12)年  販売部数30万部を突破
 
(2)販売部数と世帯普及率
 ここで、同じ東京圏に属し、比較的類似した環境に置かれていると見なしうる、下野新聞(栃木県)、茨城新聞(茨城県)、埼玉新聞(埼玉県)、神奈川新聞(神奈川県)、千葉日報(千葉県)、山梨日日新聞(山梨県)の6紙と上毛新聞(群馬県)を比較しながらその現状と特徴について検討してみる(表1)。この表を見ると、上毛新聞を含む7紙とも朝刊のみの発行である。上毛新聞の販売部数は下野新聞に次いで第2位である。
販売部数を世帯数で割った世帯普及率を見ると、埼玉新聞、神奈川新聞、千葉日報といった 東京圏に隣接し、東京への通勤圏としての色彩が強い県の地方紙がいずれも10%以下にとどまっている。それに対し、上毛新聞、下野新聞は40%を越え、山梨日日新聞に至っては、東京に隣接していながらも、その地域性もあり67.4%に達している。
 
表1 首都圏の販売部数と世帯普及率
  販売部数(部) 世帯普及率(%) 発行形態
上毛新聞 301746 43.6 朝刊
下野新聞 312627 46.2 朝刊
茨城新聞 117501 12.2 朝刊
埼玉新聞 161235 6.7 朝刊
神奈川新聞 237521 7.3 朝刊
千葉日報 190187 8.9 朝刊
山梨日日新聞 207722 67.4 朝刊
                   出典:日本新聞協会(2002)より算出・作成
 
 
また、群馬県内での上毛新聞の販売部数を他紙と比較してみると、上毛新聞は圧倒的に県内最大部数を誇っており、多くの県民に受け入れられ、高い評価と支持を受けていることがわかる(図2)。
 
 図2 県内販売部数の他紙との比較     
  
  出典:上毛新聞社マーケティング資料
 
(3)上毛新聞の紙面構成
@「ツイン方式」
 現在日本で発行されている新聞は、ほとんど一般紙のみの一部構成をとっているが、上毛新聞は、一般紙とスポーツ紙の二部から成る、いわゆる「ツイン方式」を全国で最初に取り入れた。
 
A紙面構成
 次に、上毛新聞の紙面構成について、全国紙(一般紙)と比較しながら検討してみる。基本的な紙面構成は、広告を除くと、おおむね以下のような順序になる。(カッコ内ページ)
a.全国紙
(1)第一総合、コラム(天声人語など)→(2)第二総合→(3)第三総合→(4)解説・社説→(5)投書・投稿→(6)政治→(7)国際→(8)経済→(9)商況→(10)文化・芸能→(11)家庭→(12)ラジオ番組欄→(13)スポーツ→(14)広域・地方版→(15)広域・地方版→(16)第二社会→(17)第一社会→(18)テレビ番組欄
 
b.上毛新聞
・一般紙(1)第一総合(県内ニュース)、コラム(三山春秋)→(2)国内政治→(3)第二総合→(4)国際→(5)第三総合→(6)経済→(7)経済→(8)商況→(9)地域(東毛)→(10)地域(西北毛)→(11)地域(西北毛)→(12)地域(県央)→(13)第三社会→(14)第二社会→(15)第一社会→(16)プリズム
・スポーツ紙(17)県内スポーツ→(18)国内スポーツ→(19)県内スポーツ→(20)スポーツ、囲碁→(21)読者のページ→(22)ぱれっと(募集情報)→(23)ぱれっと(募集情報)→(24)関東甲信越情報→(25)生活・科学→(26)文化・芸能→(27)テレビ・ラジオ→(28)テレビ
 
この紙面構成を見てみると、上毛新聞が地方紙として地域面を充実させていることは明らかである。一般紙・スポーツ紙とも、第一紙面は基本的に地元ニュースを優先させ、また、それ以外の紙面でも地域に根ざしたニュースや情報が数多く掲載されている。読者のページや募集情報などのページを設けることにより、より読者との関係を親密にしようという工夫がなされている。
 
Y.考察
 地方紙の発行部数が減少し、次々と廃刊や休刊に追い込まれている状況において、今後地方紙はどのような方向性をもっていかなければならないのか。また、なぜ上毛新聞は、このような現状においても多くの県民に支持され、販売部数を伸ばし続けているのか。
 まず、「親しみやすさ」である。これは地方紙がもつ最大の利点であるといえる。地域に根ざした情報を多く掲載し、また、読者との距離を狭め、親密な関係を築けたことが、多くの読者に受け入れられた最も大きな理由ではないだろうか。次に、「読みやすさ」である。「ツイン方式」を取り入れ、目的に応じて紙面が分かれているため、とても読みやすくてわかりやすい構成になったことも重視すべき点である。スポーツ紙では、カラーや写真を多く使い、子供からお年寄りまで幅広い年齢層で楽しめる新聞であるということも支持される理由であると考える。
 地方紙は、全国紙とはその内容や形式、目的が異なる。その分地方紙としての特徴や利点を最大限に生かし工夫をしなければ読者に受け入れられるのは難しい。さらに「影響力」や「信頼」の面でも、全国紙と同レベルくらいは持てるような努力をするべきである。地方紙は、地域メディアとしての役割をしっかりと心得、読者の声を敏感に感じ取りながら、その地域に合った新聞を作っていかなければならない。上毛新聞は、この役割が担えているからこそ、現在でもこのように多くの支持を受け続けているのだと考える。
 
 
 
 
?参考文献
1.G.タックマン(1991)『ニュース社会学』鶴木眞・桜内篤子訳、三嶺書房。
2.電通総研編(1998)『情報メディア白書』電通総研。 
3.日本新聞協会(2002)『日本新聞年間98/99』電通。
4.日本新聞協会(1998)『日本の新聞』日本新聞協会。
5.上毛新聞社(2003)『マーケティング資料』上毛新聞社。